ギフテッドの子にボードゲームとか ホームスクールとか

子供とホームスクールで遊びまくってます。色々家で教えてきたので手作り教材とか多め。ボードゲームも好き。子供にフラワーアレンジメントとか。遊戯王歴8年、親子で駆使するデッキは300個以上。遊戯王のオリカ作成、デュエル中のディレクターや音響さんは子供が担当。

ヒュプノセラピーこぼれ話 泉鏡花「外科室」「日本橋」

日本が誇る作家、泉鏡花、いいですねえ。金襴緞子(きんらんどんす)の衣装のような重厚な世界。

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「日本橋」。いいですねえ。芸子お孝のあざとさ。一家を取りまとめる姐さんとしてのプライド。全身これオンナ、作り込んだオンナ、男を喜ばせるように作り込んだオンナ。気風のよさと意地で、人気を二分するライバル清葉と張り合うが独り相撲、本当に恋した男に対しては本当の女になるしかなく、さらけ出した恋の弱み、張りつめていた心は崩れ落ち、あらわれた素顔は泣き顔。男並みに周囲を仕切って、日本橋の芸者の世界ですべてに張り合って生きていたお孝が、はがれ落ちた仮面の下の自分のあまりの無防備さに戸惑い対処もできないままに、一気に精神のバランスを崩してゆく・・・
物語は炎に包まれて終わるのですが、決して卑怯なことをしてこなかったライバル清葉と、本当なら真の友情が芽生えていたかもしれないと余韻を残すラストに胸を打たれます。焼け落ちる家屋、炎に横顔を照らされ、一瞬正気に戻ったお孝と、駆けつけた清葉が、はっと心の中で手を取り合う。
お孝「姐さん、遺言を聞いて下さい。」
清葉「身に代えまして、清葉が、貴女になりかわって。いのちに掛けます、お孝さん。」
同じ日本橋に命張って生きる芸子同士、形は違っても、通じるものがあったのでしょう。恋の物語でありながら、恋よりも、凛と見つめ合うふたりの美女の生きざまだけが
なによりも浮かび上がってくるのでした。

突っ込みどころ満載の「外科室」

さて。
そんな泉鏡花の「外科室」。ヒュプノセラピー、催眠がらみで思い出さずにはいられません。
さる高貴な伯爵夫人がいよいよ胸を切開しなければ命にかかわるとして、緊張に包まれる白い外科室で、だんなさまの伯爵、腰元たち、看護婦、親戚のものたちに囲まれ、なぜか土壇場で断固として麻酔を拒否。
当然ながら説得の嵐。
「奥、そんな無理を謂ってはいけません。できなくってもいいということがあるものか。わがままを謂ってはなりません」
「なぜ、そんなにおきらいあそばすの、ちっともいやなもんじゃございませんよ。うとうとあそばすと、すぐ済んでしまいます」
「こうなったら、姫を連れて来て説得を・・・」

この時、瀕死の伯爵夫人はきっとまなこを開いて、
「そんなに強いるなら仕方がない。私はね、心に一つ秘密がある。ねむりぐすりはうわごとをいうと申すから、それがこわくってなりません。どうぞもう、眠らずにお療治ができないようなら、もうもうなおらんでもいい、よしてください」
いやもう、よくないから!ほっといたら死ぬから!それに、もう自白したも同然じゃん。
えっとー、本文は「良人(おっと)とたる者がこれを聞ける胸中いかん。」と続きますね。やっぱり!!
ところが瀕死の病人をおもんばかって、あくまで温厚に聞く伯爵なかなかの人物。
「わしにも、聞かされぬことなんか。え、奥」
「はい。だれにも聞かすことはなりません」
いやもう、誰なん相手!とっとと自白して麻酔打ってもらって寝な!いやもう自白しなくていいから寝ろ!
「何も痲酔剤を嗅いだからって、うわごとをいうという、決まったこともなさそうじゃの」
そうそう!もっともだ!いいぞ伯爵その調子で説得だ!うわごと言うと決まったわけではない!言わないかもしれない!そうなったら儲けもの!さあ、それに賭けるんだ!
「いいえ、このくらい思っていれば、きっと謂いますに違いありません」
あーーーーっ、駄目だこの人!
「お胸を少し切りますので、お動きあそばしちゃあ、剣呑でございます」
「なに、わたしゃ、じっとしている。動きゃあしないから、切っておくれ」
いや、無理だから!動くから!魚の小骨抜くのと違うから!

と、ここで伯爵夫人は、きっとなって、
「刀を取る先生は、高峰様だろうね!」
・・・あれっ?
「はい、外科科長です。いくら高峰様でも痛くなくお切り申すことはできません」
「いいよ、痛かあないよ」
痛いに決まってる!
「ひとときおくれては、取り返しがなりません。(中略)看護婦ちょっとお押え申せ」
そうだ、そうやって取り押さえてさっさと麻酔をしてしまうんだ!
「あれーーーっ(と拒否)。さ、殺されても痛かあない。ちっとも動きやしないから、
だいじょうぶだよ。切ってもいい」と胸をくつろげる伯爵夫人。
そこで、決意したのか、顔色がさっと変わって立ち上がる執刀医の高峰様。
「看護婦、メスを」
えええーーっ!?やるんですかあ!?せんせ?
おどおどしながらメスを渡しちゃう看護婦、「先生、このままでいいんですか」
「ああ、いいだろう」
いいわけない!
高峰様は夫人の前に立ちじっと見据えて誓うがごとく神聖なおもむきで
「夫人、責任を負って手術します」
「どうぞ」
その時さっと蒼白な夫人の頬に赤みが捌け、メスをひたと見つめたと思うと一閃、高峰様の神技は、三秒のうちに胸を切開!患部に達した瞬間、微動だにしなかった夫人がはじめて「あ」とうめいて身を起こし、高峰様のメスを持つ手に自らの両手を添える!劇的な瞬間!
「痛みますか」
痛くないわけないだろ!
「いいえ、あなただから、あなただから・・・でも、あなたは、あなたは、わたくしを知りますまい!」
というなり、高峰様の持つメスでそのまま自分の深く胸をかき切ります!
高峰様は真っ青になりながら
「忘れません」
『その声、その呼吸(いき)、その姿、その声、その呼吸、その姿。伯爵夫人はうれしげに、いとあどけなき微笑(えみ)を含みて高峰の手より手をはなし、ばったり、枕に伏すとぞ見えし、くちびるの色変わりたり。そのときの二人がさま、あたかも二人の身辺には、天なく、地なく、社会なく、全く人なきがごとくなりし。』
・・・・・・
えっとー。どうすんのこれ?
周囲呆然なんですけど・・・。
っていうか、全バレなんですけど・・・。
死んじゃうわ、バレちゃうわで、両方の目的、達してないんですけど・・・。

あとね、麻酔してから、絹のハンカチ一枚でさるぐつわするとかアイデア無いん?
第一、お人払いすりゃいいじゃね?どのみち看護婦はメス渡しただけだし今だって高峰様しかやってないんだから。
だいたい、外科室になんで実際の手術中に親戚とか小間使いとかぞろぞろ居てんの?
出てもらえば済むことじゃん。こういう段取りの悪さとか根回しのなさとかなんとかならんの?
出て行って仕切りたくなるんだけど。せっかく鷹揚な伯爵様なんだから「すぐにお呼び遊ばしますので廊下でお待ちください」看護婦には「ただちに湯を沸かして絶やさないようにしなさい」といって釘づけにさせる。あと点滴とかないの?そのまま消毒もせずにいきなり切ってるし。野戦病院かここは。
手術終わっても麻酔切れるまで何時間でも根性でそばに粘ってたらいいんでしょ?「容体が急変するといけませんからわたくしが責任もっておくさまを見守ります」とかなんとかいくらでも言えるじゃん。びっくりするわ。そんでもって、夫人やっぱり死んじゃうし。

物語のラストは、9年前からの恋であっただろうこと、高峰様はいくつになっても妻を持とうとせず身辺を清く保っているのがみなに不思議に思われていた事、「おなじ日に前後して相逝ゆけり」「天下の宗教家、渠ら二人は罪悪ありて、天に行くことを得ざるべきか」と問いかけて終わっていますが、・・・・・私なら、ゆるす!ゆるすから頼むからもうちょっとうまくやってくれ!